相続時精算課税の申告ミスに注意!特別控除枠と110万円非課税の落とし穴を徹底解説

こんにちは、税理士の武田です。

 今回は、「相続時精算課税の申告ミスに注意!特別控除枠と110万円非課税の落とし穴」を具体例を踏まえて簡単に解説致します。

武田

この記事はこんな人におすすめ!

  • 相続時精算課税について改正部分も踏まえて確認したい方
  • 土地など評価額の大きな財産の贈与を検討している方
  • 具体的な相続時精算課税贈与の方法について確認したい方

大きな生前贈与を行う際に利用できる相続時精算課税制度ですが、その贈与税申告手続きで申告ミスが起こりやすい点に注意が必要です。

実際、国税庁の資料「資産課税関係 誤りやすい事例(令和5年)」でも、相続時精算課税に関する誤りがいくつか紹介されています。

本記事では、特に特別控除を使い切った後の課税方法に関する誤認と、「110万円以下の贈与なら申告不要」という誤解の2つの事例に焦点を当て、制度のポイントと申告時の注意点を税理士が丁寧に解説します。

正しい知識を身につけて、相続時精算課税申告ミスを防ぎ、ご自身で適切に申告できるようにしましょう。

まず、相続時精算課税制度の基本を押さえておきましょう。

この制度は、一定の条件のもとで親や祖父母から子や孫への贈与にかかる贈与税について、生前に一部清算し、残りを相続時にまとめて課税する仕組みです。

具体的には、贈与者(財産をあげる人)が60歳以上の父母・祖父母で、受贈者(財産をもらう人)が18歳以上の子・孫である場合に選択できます(2022年の法改正で受贈者年齢要件が20歳以上から18歳以上に引き下げられました)。

相続時精算課税を選択すると、贈与者ごとに累計2,500万円までの贈与であれば贈与税がかからない特別控除枠が適用されます。

例えば、親から子へ生前贈与を行う際に本制度を利用すれば、合計2,500万円までは贈与税が非課税となり、それを超える部分には一律20%の贈与税率がかかります。

ただし、この制度で贈与された財産は将来の相続税計算において加算される点に注意が必要です。

つまり、生前に贈与税を安く抑えられても、贈与した財産は贈与時の評価額で相続財産に含められ、相続時にまとめて精算(課税)される仕組みです。

制度を利用するには、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までに所定の様式で「相続時精算課税選択届出書」を提出し、贈与税の申告書に添付する必要があります。

一度この制度を選択すると、対象となる贈与者(特定贈与者)からの贈与についてはすべて相続時精算課税で課税され、原則として途中で暦年課税(毎年110万円まで非課税の通常の贈与課税)に切り替えることはできません。

なお、2024年以降の贈与から本制度が改正され、年間110万円までの基礎控除が相続時精算課税制度にも新設されました。

これにより、本制度を選択していても、1年間に特定贈与者から受けた贈与額が110万円以下であれば贈与税がかからず、贈与税の申告も不要となっています。

ただし、この110万円の枠は通常の暦年課税の非課税枠と共通であり、同一年中に複数の特定贈与者から贈与を受けた場合には配分が必要になる点に注意しましょう。

国税庁:No.4103 相続時精算課税の選択

武田

相続時精算課税制度は、直系の親族に限定されているので、兄弟間や夫婦間などでは利用できません。生前贈与が7年加算に改正されたことにより、今後は相続時精算課税の利用が増えていくと思われます。

次に、相続時精算課税の適用場面で納税者が陥りやすい具体的なミスについて、ケースごとに解説します。

国税庁の公表する事例を題材に、どこに誤りがあったのか、正しくはどうすべきだったのかを確認しましょう。

ケース1: 特別控除を使い切った後に暦年課税に切り替えようとした誤り

ケース1:

【事例】

相続時精算課税を選択して父からの贈与を受けていたAさんは、これまでに父からの贈与で特別控除額2,500万円を使い切ってしまいました。

そこで、新たに父から贈与を受けた財産については、相続時精算課税ではなく通常の暦年課税を適用し、贈与税の申告を行おうと考えました。

誤りのポイント:

一度相続時精算課税を選択した特定贈与者からの贈与は、その選択をした年以降、すべて相続時精算課税で申告しなければなりません。

特別控除枠を使い切った後であっても、制度を途中でやめて暦年課税に戻すことはできないのです。

Aさんのケースでは、父からの贈与についてすでに相続時精算課税を選択しているため、新たな贈与も引き続き相続時精算課税として申告し、特別控除枠の超過分(2,500万円を超えた部分)に対して一律20%の税率で贈与税を納める必要があります。

正しい対応:

相続時精算課税制度では、特定贈与者ごとに累計2,500万円までの贈与税非課税枠があるものの、その枠を使い切った後は超過分に贈与税(20%)が課税されます。

仮に特別控除枠を使い切ったとしても、以後の贈与も引き続き同じ制度で申告しなければならず、110万円の基礎控除も含め通常の暦年課税に戻ることはできません。

制度選択後に「やはり暦年課税にしたい」という変更は認められていないため、特別控除枠の利用状況も踏まえて計画的に贈与を行うことが大切です。

ケース2: 「110万円以下の贈与なら申告不要」と誤解して無申告

ケース2:

【事例】

相続時精算課税を選択して母から贈与を受けているBさんは、その年に母から100万円の現金を贈与されました。

贈与額が贈与税の基礎控除110万円以下であるため、贈与税の申告は不要だろうと判断し、Bさんはその年の贈与税申告を行いませんでした。

誤りのポイント:

(※本ケースは2023年までの旧制度に基づく誤りです)相続時精算課税制度を選択している場合、従来は年間110万円以下の贈与であっても申告が必要でした。

暦年課税であれば110万円までの贈与は非課税・申告不要ですが、本制度を選択している特定贈与者からの贈与には110万円の非課税枠は適用されず、たとえ1円でも贈与があれば税額が0円であっても申告しなければならなかったのです。

Bさんはこれを誤解して通常贈与と同じ感覚で無申告としてしまったため、申告漏れとなってしまいました。

正しい対応:

(※2023年まで)相続時精算課税適用中は、贈与額にかかわらず毎年必ず贈与税の申告を行う必要がありました。

今回のケースであれば、100万円の贈与について贈与税申告書を提出し、その100万円を特別控除枠(2,500万円)の一部として充当します。

税額自体は特別控除内であるため0円となりますが、申告を通じて控除枠の消化を税務署に報告することが重要です。

2024年以降の新制度:

2024年以降の新制度では、前述のとおり相続時精算課税制度にも年間110万円までの基礎控除が設けられたため、110万円以下の贈与であれば申告自体が不要となりました。

したがって、Bさんのようなケースは制度改正後は起こりえません。ただし、110万円を超える贈与を受けた場合には引き続き申告が必要ですし、基礎控除額を超えた部分について特別控除枠を差し引いてもなお残額があれば20%の贈与税が課されます。

制度改正により利便性は向上しましたが、「110万円以下なら何度贈与してもよい」という意味ではありませんので注意しましょう。

武田

2024年1月1日以降は、相続時精算課税の適用を受ける初年度で、贈与額が110万円以下の場合、贈与税申告書の提出は不要です。

ただし、「相続時精算課税選択届出書」は提出する必要がありますので注意が必要ですね。
※財産を貰う人(受贈者)の戸籍謄本の添付も忘れずに

相続時精算課税制度を正しく利用するために、具体的な申告手順をステップごとに確認します。ご自身で申告する際の参考にしてください。

具体的な申告手順

適用要件の確認
まず、本制度を利用できる関係かどうかを確認します。贈与者が60歳以上の親・祖父母等で、受贈者が18歳以上の子・孫であることが基本条件です。また、贈与財産の種類によっては別途適用除外となるケース(非上場株式の特例贈与など)もあるため注意しましょう。
相続時精算課税選択届出書の届出
相続時精算課税を利用して贈与を受ける初年度には、必ず「相続時精算課税選択届出書」を提出します。これは贈与税の申告書と合わせて作成し、提出時に税務署へ添付する形で提出します(信頼できる税理士に依頼する場合は作成を代行してもらえます)。
贈与税申告書の作成
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告書を作成します。この際、相続時精算課税用の計算欄に特定贈与者ごとの贈与額を記入し、適用する特別控除額や税額を計算します。贈与額が110万円を超える場合には110万円の基礎控除をまず差し引き、残りについて特別控除枠の残額を充当して課税価格を算出します。
税額の計算と確認
特別控除枠(最大2,500万円)の範囲内であればその年分の贈与税は0円となります。枠を超過した場合には、その超過額に対して20%の税率で贈与税額を計算します。税額がある場合には、忘れずに納税額を確認しましょう。
申告書の提出・納税
作成した申告書を税務署に提出します。贈与税が発生している場合は、申告期限(3月15日)までに税額を納付します。納税が遅れると加算税や延滞税が課される可能性があるため注意が必要です。
翌年以降の管理
相続時精算課税を継続利用している間は、毎年の贈与状況を把握し、特別控除の残額を管理しておきましょう。特定贈与者ごとに残りいくら非課税で贈与可能かを把握していれば、贈与計画も立てやすくなります。一度選択した贈与者からの贈与は全期間にわたり本制度が適用されますので、途中で通常贈与に戻すことができない点も踏まえて長期的な視点で利用しましょう。

相続時精算課税制度は、まとまった財産を生前贈与する際に有効な制度ですが、贈与税の申告で誤りを犯すとペナルティや後日の税務調査で指摘を受けるリスクがあります。

本記事で解説したように、特別控除枠を使い切った後でも暦年課税に戻せないことや、(※改正前は)110万円以下の贈与でも申告が必要だったことなど、制度独特のルールを正しく理解しておくことが肝心です。

幸い2024年の税制改正で使い勝手は向上しましたが、それでも制度の基本原則は変わりません。

大切なのは、贈与を行う前に制度の仕組みとメリット・デメリットを把握し、計画的に活用することです。ご自身で申告する場合でも、分からない点があれば国税庁の情報や専門家に確認しながら進めると安心でしょう。

正しい知識に基づいて手続きを進め、相続時精算課税制度を賢く活用してください。

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