生活費に関する贈与税の落とし穴と正しい取扱いを具体例と共に解説

こんにちは、税理士の武田です。

 今回は、「生活費に関する贈与税の落とし穴と正しい取扱い」を具体例を踏まえて簡単に解説致します。

武田

この記事はこんな人におすすめ!

  • 子どもへの仕送りや教育資金の援助検討している方
  • 生活費について贈与税の非課税を確認したい方
  • 具体的な贈与の方法について確認したい方

「親から生活費をもらったけど、贈与税はかからないよね?」――一般のご家庭でも資産家でも、こうした誤解が少なくありません。

生活費や教育費の援助は贈与税が非課税となる場合がありますが、その範囲や条件を正しく理解していないと、後になって思わぬ税務上のペナルティを受ける可能性があります。

本記事では、生活費に関する贈与税について、よくある誤りやすいケースと正しい取り扱いを税理士の視点から専門的かつわかりやすく解説します。

国税庁が公表した「資産課税関係 誤りやすい事例1-8(生活費)」の内容も踏まえ、非課税となる条件や一括贈与の落とし穴、贈与の証明方法など重要ポイントを紹介します。

この記事を読めば、扶養家族への仕送りや教育資金の援助を行う際にどんな点に注意すべきかが分かり、相続対策として生活費支援を活用するための正しい方法も理解できるでしょう。

贈与税は、原則として個人から財産をもらった場合に課される税金ですが、一部には非課税とされる例外があります。

その代表的なものが「生活費や教育費に充てるための贈与」です。

税法上、配偶者や親子・兄弟姉妹など扶養義務者※の間で、日常生活や教育に必要な費用を支払うためにその都度渡されたお金については、贈与税がかからないと規定されています。

※扶養義務者…民法上お互いに扶養する義務がある親族のこと(配偶者、直系血族〈親子や祖父母・孫〉、兄弟姉妹など)。

では、「生活費や教育費」として非課税になるための具体的条件を見てみましょう。以下のポイントをすべて満たす必要があります。

「生活費や教育費」としての非課税要件

要件1:扶養義務者からの贈与であること

贈与者と受贈者の関係が親子・夫婦など扶養義務のある間柄である。

要件2:費用の性質

日常生活に通常必要と認められる生活費、または学費・教材費など通常必要な教育費である​。医療費や子育ての費用なども含まれます。

要件3:必要な都度、直接充てられたもの

必要な都度、直接充てられたもの:援助が必要になる都度、その支払いに直接あてるために渡されたお金である。

この「必要な都度、直接」というのがポイントです。

例えば毎月の家賃や仕送り、学期ごとの授業料など、その時々の支払いのために渡されたお金であれば非課税ですが、後述するように将来の分までまとめて渡した場合は注意が必要です(非課税の範囲を超える可能性があります)。

また、生活費や教育費として受け取った金銭でも、本来の目的に使わずに貯金したり他の資産購入に回した場合は非課税とはみなされません。

国税庁:No.4405 贈与税がかからない場合

生活費援助が非課税だからといって、将来の生活費をまとめて一括贈与すると贈与税がかからないわけではありません。

よくある誤解の一つに、「これから必要になる生活費を先にまとめて渡しておけば安心」というものがあります。しかし税法では、生活費の援助はあくまで「実際に必要となる都度」に行われることが前提です​。

具体例で確認

例えば

例えば、大学に進学する子や孫に対し、「4年分の生活費をまとめて渡しておくから、それでやりくりしなさい」というケースを考えてみましょう。

受け取った側がその資金をすぐに生活費や学費に充てず口座にプールしたり、株や不動産など別の資産の購入資金に流用した場合、その金額部分は贈与税の課税対象となってしまいます。

非課税扱いになるのはあくまで「通常必要と認められる範囲」の生活費等であり、年間の見込み額をまとめて前渡しするような形は想定されていないのです​。

例えば

誤解が生じやすいケースとして、配偶者間のお小遣い・生活費の貯蓄も挙げられます。

例えば夫が専業主婦の妻に毎月50万円の生活費を渡し、そのうち20万円ずつ妻がへそくりとして貯めていた場合、年間で240万円の貯蓄になります。

この240万円は夫婦間とはいえ生活費として使われなかった部分であり、110万円の基礎控除を超えるため本来は贈与税の申告が必要な財産となります。

さらに、その貯めたお金で妻が有価証券を購入したりすれば、その購入資金には贈与税が課税されることになります。

配偶者や家族間だからといって油断は禁物で、使われずに蓄財に回ったお金は税務上は贈与とみなされ得るのです。

なお、「教育資金の一括贈与の非課税制度(直系尊属からの教育資金贈与非課税制度)」という特例があります。

これは祖父母などが孫等に教育資金を信託等で預ける場合に一定額まで非課税にできる制度ですが、この制度を利用せずに単に大金を渡しただけでは通常の贈与とみなされ課税されます。

将来の教育費や生活費をまとめて渡したい場合は、こうした非課税制度を活用するか、もしくは税務上問題のない範囲で計画的に贈与する工夫が必要です。

武田

一度にまとめて学費を渡したい場合は、教育資金の一括贈与非課税制度を活用したほうが良いですが、生活費や学費などに必要な金額をその都度渡す場合は、そもそも贈与税は非課税です。

実際に教育費を渡す場合は、この2つの制度を理解し、上手に活用したいところですね。

身内への援助だからと油断して非課税の生活費援助をしていると、後日税務署から「これは本当に生活費に使われましたか?」と確認されたり、最悪の場合贈与税の申告漏れを指摘されるリスクがあります。

そうならないためにも、贈与の事実と使途をきちんと記録・証明しておくことが大切です。

まず、現金の手渡しではなく銀行振込を利用し、振込人名や振込メモ欄に「○月分生活費」などと明記するだけでも証拠になります。

また可能であれば簡単なもので構いませんので贈与契約書を作成し、「○年○月○日、父から子へ大学在学中の生活費として月額○万円を贈与する」等と書面に残しておくと安心です。

受け取った側も、実際に生活費や教育費に支出したことが分かる領収書やレシート、大学の授業料納付書などを保管しておくことで、「確かに必要な都度、直接生活費等に充てた」ことを後で説明しやすくなります。

仮に税務署が状況を調べることになっても、明確な記録があれば非課税で問題ない贈与だったと主張できます。

逆に記録が不十分だと、税務署は預金口座の動きや大きな現金の使途を手掛かりに、「生活費名目だが実際は贈与貯金ではないか?」と疑う可能性があります。

実際、税務署は不動産の名義変更や証券会社からの取引報告書など様々な資料を入手しており、申告されていない財産移転も把握しています。

家族間の援助であっても「見つからないだろう」と油断せず、適切に証明できる形で行うことが重要です。

ここで、国税庁が公表した具体的な事例を紹介します。

具体例で確認

「東京の大学に入学する長男が、在学中4年間の生活費として720万円(月15万円×48か月)を親から一括で受け取ったが、生活費は贈与税が非課税だから申告しなかった」というケースです。

一見、親が大学生の子に仕送りをまとめて渡しただけで微笑ましいエピソードにも思えます。しかし税務の観点では、この対応は誤りでした。

前述のとおり、生活費の援助が非課税となるのは「必要な都度、直接生活費に充てるためのもの」に限られます。

4年分の生活費720万円を一度に受け取ったということは、その年に必要だった額を大幅に超える金銭を受贈したことになり、将来の生活費の前渡し分については贈与税の課税対象となってしまいます。

国税庁も「生活費として取得した財産を預貯金とした場合や株式、家屋の購入費用に充てたような場合、その金額は贈与税が課税される」と明示しています。

このケースでは、本来であれば年間あるいは月々の必要額ごとに分けて贈与を受け取るべきでした。

仮に4年分をまとめて受け取ってしまった場合でも、生活費として実際に使った分以外については贈与税の申告が必要となります。

子ども側が「親からの仕送りだから非課税」と勝手に判断して無申告でいると、後日税務調査で指摘され追徴課税を受けるリスクがあります。

実際に贈与税の調査で指摘される案件の大半は申告漏れ(無申告)だというデータもあります​。

以上のように、一括贈与での生活費援助は要注意です。必要分を超える援助を受け取った場合は、その超えた部分について適切に申告するか、税理士に相談して正しい対処をしましょう。

高齢の親御さんや祖父母が、生前に子や孫へ財産を移す方法として「生活費や教育費の援助」を活用することがあります。

適切に行えば贈与税がかからず、結果的に将来の相続財産を減らすことにもつながるため、有効な相続対策の一つです。

しかし、これまで述べてきたように手法を誤るとかえって贈与税リスクを招きます。では、相続対策として生活費援助を活用する際のポイントを整理してみましょう。

生活費援助を活用する際のポイント

実際に必要な費用を見極める

支援する側は受け取る側の生活状況や教育ニーズを踏まえ、本当に必要な範囲の金額を算出しましょう。

社会通念上適当と認められる範囲内(例:大学生の一人暮らしなら家賃や食費・光熱費等)にとどめ、過度な援助(贅沢品や過剰な遊興費など)は避けます。

定期的かつ計画的に支援する

1年分や数年分をまとめてではなく、月々または学期ごとなど小分けにして援助するのが原則です。

支援スケジュールを計画し、必要になる都度の振込・支払いにします。どうしてもまとまった額を渡したい場合は、年間110万円の基礎控除枠内に収まる額にとどめるか、専門家に相談しましょう。

支払いは直接・迅速に

援助資金は受け取った側がすぐその費用に使える形で渡します。

理想は家賃や授業料などを支援者が直接立替払いすることですが、現金を渡す場合も受贈者がすぐに生活費支出に充て、余ったお金を口座に寝かせておかないようにします

記録と報告を欠かさない

支援した金額や日付、用途を一覧にまとめておくとともに、家族間でも「○○の費用としてこのお金を送るね」と事前に声掛けやメモを残す習慣をつけます。

後々に備えて通帳のコピーや領収証をファイリングしておくのも有効です。

以上を徹底すれば、生活費援助による生前贈与を円滑に行うことができ、相続発生時の税負担を減らす一助となるでしょう。

ただし、近年の税制改正で生前贈与加算期間(相続前に行った贈与を相続税に加算する期間)が延長されるなど、相続税と贈与税の一体化も進んでいます。

こうした制度変更も踏まえ、最適な対策について専門家と十分に検討することをおすすめします。

生活費に関する贈与税の非課税規定は、一見するとシンプルですが誤解から外れてしまうケースが後を絶ちません。

本記事で解説したように、非課税となるための条件(扶養義務者間・必要な都度・通常必要な範囲)を満たしているかを常に意識し、一括贈与や目的外の使用を避けることが重要です。

特に子や孫へのまとまった仕送りや、配偶者への多額の生活費の手渡しなどは、専門家でも意見が分かれるグレーゾーンになりがちですので注意が必要です。

税理士からのアドバイスとして、「迷ったら申告・相談」を合言葉にしてください。

もし「これは贈与税がかからないだろう」と思うケースでも、少しでも条件から外れる可能性があれば贈与税の申告を検討しましょう。

申告をしておけば、たとえ非課税だった場合でも問題にはなりませんし、万一課税対象でも早期に適正額を納税できます。

また、事前に税理士等の専門家に相談することで、最適な支援方法(場合によっては他の非課税制度の活用や贈与契約書の整備など)をご提案できます。

大切な家族への援助を有意義に続けるためにも、税務上の正しい知識と対策を身につけましょう。

適切な生活費の援助は、家族の絆を深めるだけでなく、将来の相続対策にもつながる賢い選択です。ぜひ本記事のポイントを参考に、安全かつ効果的な生前贈与を実践してみてください。

武田

贈与はシンプルに、誰でも分かるように証拠を残しておくことがとても大事です。


※本記事の内容は執筆時点(令和7年時点)の税制にもとづいています。最新の税法改正や読者個別の状況によって適用が異なる場合がありますので、具体的な税務判断は専門家へご相談ください。

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